ここ数年間で、8月の歌舞伎座の「風物詩」となった松本幸四郎、市川猿之助のコンビによる「弥次喜多」シリーズ。元はご承知、江戸時代の十返舎一九の『東海道中膝栗毛』だが、実はこの弥次喜多のコンビ、この作のヒットに味を占め、東海道の後は「金毘羅詣り」だの「木曾巡り」だのとシリーズ化された、江戸期の大ヒット作品だ。原作がそういう性質のものであれば、こうして主人公だけは変えずに趣向をどんどん変えながら続演していく方法は江戸時代そのままとも言える。
続きを読むここ数年間で、8月の歌舞伎座の「風物詩」となった松本幸四郎、市川猿之助のコンビによる「弥次喜多」シリーズ。元はご承知、江戸時代の十返舎一九の『東海道中膝栗毛』だが、実はこの弥次喜多のコンビ、この作のヒットに味を占め、東海道の後は「金毘羅詣り」だの「木曾巡り」だのとシリーズ化された、江戸期の大ヒット作品だ。原作がそういう性質のものであれば、こうして主人公だけは変えずに趣向をどんどん変えながら続演していく方法は江戸時代そのままとも言える。
続きを読む最近、「LGBTQ」など性的マイノリティに対する理解が広がりを見せている。この「ダディ」も、男性同士の物語だが、それを受け入れる社会のありようという点でもう一歩踏み込んだ、一口で言えば「重さ」を孕んだ作品である。ニューヨークやロンドンで話題になっているのも、単にマイノリティと呼ばれる人々が大手を振って歩ける社会、という事のみではなく、そういう時代がいつか来たとしても、表面とは別に抱えている「心の闇」や「苦しみ」に焦点が当てられているからこそだろう。特に、キリスト教がイギリスやアメリカほどに根付いていない日本では、「神」に対する想いの強さがどこまで観客に伝えられるか、などの問題もあり、難しい作品だとも言える。しかし、小川絵梨子の演出が人物の心の襞を丁寧に描いているので、難解なテーマながらもすっと胸に落ちて来る。
続きを読む今年創立80年を迎えた劇団「文化座」。和暦で言えば昭和17年、戦争真っ最中に誕生した劇団である。創立メンバーの一人でのちに代表を務めた鈴木光枝から、息女の佐々木愛に引き継がれ、他の劇団にはない味わいを持った作品を提供し続けている姿勢は貴重だ。
続きを読む2009年に亡くなった劇作家・田中喜三(きぞう)の新歌舞伎『信康』。徳川家康の嫡男として生まれ、「戦の天才」との誉が高かったが、妻・徳姫の父でもある織田信長の勘気を蒙り、21歳の若さで切腹に追い込まれる、という物語だ。なぜ信長が信康を切腹させたのか、理由は諸説あるようで、最も一般的とされている信康の母・築山殿と徳姫の折り合いの悪さや、天性の信康の戦の才能を信長が危惧したためと言われる説に基づいて一幕三場の芝居に仕立ててある。
この作品は新作歌舞伎を対象とした「大谷竹次郎賞」の受賞作で、初演は1974年、当時、澤村精四郎(きよしろう)を名乗っていた現・澤村藤十郎の信康に、五世中村富十郎の父・家康。その後、1996年に、市川新之助(現・市川海老蔵)の信康に十二世市川團十郎の家康で上演され、今回が三回目の上演となる。
続きを読む劇団文化座の創立75年の2017年に、杉浦久幸が書き下ろした『命どぅ宝』。タイトルからもわかるように、沖縄を描いた作品だが、コロナ禍で予定通りの上演ができないケースにも遭いながら創立80年、そして沖縄返還50年を迎える節目の2022年、長いツアーに一区切りを付けることになった。
続きを読む日本と韓国の関係は相変わらずいろいろな問題が横たわり、決して良好な関係とは言えない。その一方で、第四次とも言われる「韓流ドラマ」のブームをはじめ、K-POPなどのエンタテインメント分野での交流は、若い世代を中心に盛んである。政治的な問題に関して、日韓双方の批判合戦は分からないではないものの、双方がお互いの事を知らないままに批判を繰り返しているような気がしてならない。
続きを読むここ暫くの間で、「LGBT」など「性的マイノリティー」に対する理解が急速に深まりつつある。時代の趨勢で、これまで苦しみ悩んでいた人には朗報だが、まだまだ偏見が多いのも事実だ。そうした現在、男性同士の恋愛が三角関係で揉めながらもハッピー・エンドで終わる作品がミュージカルで上演される時代になった。2019年3月に日本で初演されて以来の再演で、コロナ禍の中でも人々に勇気を与え、「愛の力」を知らせる作品だ。
続きを読む昨年の夏はコロナ禍で幕が開かなかったが、二年ぶりに夏の大阪・道頓堀で夏芝居の幕が開いた。現在は病気療養中の澤村藤十郎が中心となって始めた「関西・歌舞伎を愛する会」も今年で29回を数え、上方の伝統文化の継承・定着に心を砕く人々や、関西の歌舞伎ファンにとって貴重な舞台である。
続きを読む歌舞伎座の第一部は『勧進帳』のキャストを変えて、A日程とB日程で上演されている。B日程は、弁慶が松本幸四郎、富樫が尾上松也での『勧進帳』だ。中村雀右衛門の義経は変更なし。『勧進帳』の前に『小鍛冶』が上演されるが、これは「A日程」の劇評で述べたので今回は触れない。
続きを読む「今、何とか生きてる俺たちに乾杯!」。幕切れ近くのこの台詞は、コロナ禍で先が見えずに混迷する日本の今、その中で生きる我々観客のためにあるとも言える一言だ。
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