エッセイ

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私が選んだ100本 020.『明治一代女』作:川口 松太郎 2017.08.21

 新派の名作として名高いこの芝居、実は実際の事件を元にした作品である。15歳で新橋から芸者に出た「花井お梅」が、いくつかの花街を転々とした後、浜町河岸で芸者の身の回りの世話をする「箱屋」の峯三郎を殺害し、無期徒刑となった。40歳で釈放されたお梅は、自分の犯した罪を芝居仕立てにして地方を回ったり、店を開いたりしたが、いずれも長続きはせずに、53歳で世を去った。 続きを読む

私が選んだ100本 019.『沓手鳥孤城落月』作:坪内逍遥 2017.08.14

 「ほととぎすこじょうのらくげつ」と読む。いかにも難しい題名で、作者の坪内逍遥は、明治時代に起きた「言文一致運動」の影響を受け、『小説神髄』を発表し、それまでの「戯作」を「文学」に高めた一人である。演劇界においての逍遥の仕事と言えば「日本初のシェイクスピア作品の全訳」が筆頭に挙げられるが、歌舞伎作品も遺している。時折上演される舞踊『お夏狂乱』もその一つだが、この『沓手鳥孤城落月』は、歴史劇で明治38年に初演された。豊臣と徳川の戦で、大阪城落城の折の淀君と秀頼親子、そして片桐且元らの姿を描いた作品で、『桐一葉』と双璧をなす作品だ。 続きを読む

 私が選んだ100本 018.『欲望という名の電車』作:テネシー・ウィリアムズ 

 この秋に、大竹しのぶが渋谷のシアターコクーンで上演することが決まっている。アーサー・ミラーと並ぶ現代アメリカ演劇の劇作家、テネシー・ウィリアムズの代表作の一つだ。1947年にアメリカで初演され、日本では7年後の1952年に文学座が初演をし、以来、主役のブランチは、杉村春子の代表作の一つとなって晩年まで回を重ねた。杉村の存命中は、青年座の東恵美子、新派の水谷良重(現・二代目水谷八重子)、俳優座の栗原小巻が演じたくらいで、ほとんど杉村の専売特許の感があったが、杉村没後は樋口可南子、大竹しのぶ、高畑淳子、珍しいところでは女形の篠井英介が黒のセーターとパンツで、衣裳をつけずに演じたこともある。 続きを読む

私が選んだ100本 017.『日本橋』作:泉鏡花 2017.07.31

 明治から昭和にかけて活躍した泉鏡花は、明治以降の近代文学において、一つの「美学」の水脈を作った作家だと私は考えている。鏡花に端を発した耽美的な美学は谷崎潤一郎を通り、三島由紀夫に受け継がれ、赤江瀑(1933~2012)まで、時には地下を流れる水流のように連綿と続いた。 続きを読む

私が選んだ100本 016.『アマデウス』作:ピーター・シェーファー 2017.07.24

 この秋に、松本幸四郎が現在の名前では最後の『アマデウス』を演じる。映画でも知られるこの作品は、天才・モーツァルトと、その才能に嫉妬の炎を燃やす宮廷音楽家・サリエリとの対立を描いたものだ。男の嫉妬ほど醜いものはないとはよく言われる話で、理性的なはずの大人でさえも隠せないほど、人間の根源的な感情なのだろう。 続きを読む

私が選んだ100本 015.『仮名手本忠臣蔵』

 歌舞伎の「三大名作」として人気が高く、2016年には国立劇場開場50周年記念公演として10月から12月までの三ヵ月をかけて30年ぶりに「完全上演」を行った。「忠義」や「恩義」という感情に対する感覚が変って来た時代の中で、『忠臣蔵』も庶民の一般教養との距離が出ていることは否定できない。 続きを読む

私が選んだ100本 014. 『近代能楽集』作:三島由紀夫  2017.07.10

 小説だけではなく、戯曲にも『鹿鳴館』などの名作を遺した三島由紀夫が、能の作品から何点かを選び、現代劇にしたものが『近代能楽集』だ。昭和31年から43年にかけて間歇的に発表されたもので、『邯鄲(かんたん)』『綾の鼓』『卒塔婆小町(そとばこまち)』『葵上(あおいのうえ)』『班女(はんじょ)』までが第一弾。しばらく間を置いて『道成寺』『熊野(ゆや)』『弱法師(よろぼし)』の3曲を加えた全8曲になり、9作目の『源氏供養』を発表したものの、本人の意思で廃曲とした。なぜ、最後の『源氏供養』を廃曲にしたのか、理由は分らず、現在『近代能楽集』として上演されるのは全8編である。ただ、1981年に、国立小劇場で『近代能楽集』から3編を上演した折になぜか『源氏供養』を観ている。三島の死後11年後のことで、どういう経緯でこの時上演されたのか、今となっては定かではない。 続きを読む

013. 『桜の園』作・アントン・チェーホフ 2017.07.03

 戦後の一時期、新劇団が競って『桜の園』を上演していた時期があった。俳優座は東山千栄子のラネーフスカヤ、劇団民藝は細川ちか子、だいぶ後になって文学座の杉村春子と、それぞれの劇団の看板女優が演じている。この中で私が観たのは杉村春子の『桜の園』だけだが、さしもの名優・杉村春子もロシアの優雅な貴族夫人にはなれなかったのを覚えている。 続きを読む

私が選んだ100本 012.『毒薬と老嬢』作:ケッセルリング

 1948年にヒットしたアメリカ映画で、二人の老女が主人公の珍しいコメディだ。日本での初演は1951年7月、東京・日本橋の三越本店内の三越劇場で、「三越現代劇第二回公演」として轟夕起子、三島雅夫らによるものだ。その後、賀原夏子が率いるコメディ専門の劇団NLTが1987年に初演し、1991年、1998年、2002年と好評を受けて繰り返し上演しており、1991年に賀原が亡くなってからは、客演の形で淡島千景、淡路恵子の二人が演じた。コメディに興味を示す役者は多いが、かなり高度な技術を必要とするのも事実だ。 続きを読む

011.『東海道四谷怪談』作:四世鶴屋南北

 歌舞伎の「怪談」と言えば、まずこの作品の名が挙がるのではないだろうか。江戸時代もそろそろ終わりに差し掛かろうという1825(文政8)年に、鶴屋南北の手によって書かれた歌舞伎だ。多くの人々が知る話の内容は、民谷伊右衛門という悪人が、自分の妻・お岩に顔の変わる薬を飲ませ、その祟りに苦しむ、という辺りだろうが、それ以外には何が描かれていたか、となると「?」という形だ。もっとも、我々の名作に対する知識はそういうもので、海外の名作にしても学校で題名だけは暗記させられた…というものが多い。 続きを読む

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