演劇批評

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『ラ・マンチャの男』 2023.04.14 横須賀芸術劇場

 昨年2月、東京・日生劇場で二代目松本白鸚(はくおう)の『ラ・マンチャの男』が「ファイナル公演」の幕を開けた。しかし、まだ「新型コロナウイルス」の勢いが今ほどには収まってはおらず、関係者も崩し、休演の日が相次いだ。結果として、25回予定されていた公演の幕は7回しか開かずに終わることになった。この公演に向けて懸命に稽古を続けてきたキャスト・スタッフ・関係者はもちろんのこと、1,300回、半世紀を超える白鸚の「遍歴の旅」の最後を見届けようと楽しみにしていた観客の嘆きも大きかった。通常の公演であればともかくも、今までの集大成との意味を込めた「ファイナル」であるだけに、何とかならないものか、との声が公演主催の東宝にも数多く寄せられたようだ。

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『新作歌舞伎 ファイナルファンタジー Ⅹ』 IHIステージアラウンド東京

 歌舞伎には、江戸の昔から「世界」という言葉がある。作品を創るに当たり作者たちが使う言葉で、今で言えば「テーマ」「世界観」などに相当するだろう。「次の作品の世界は『源平の戦い』で行きましょう」のような使われ方だ。昨今、アニメや歌舞伎以外の分野の作品を「世界」に据えた新作歌舞伎が多いのは見ての通りで、今度は人気ゲーム「ファイナルファンタジー」を「世界」に据え、ゲームと歌舞伎のコラボレーションとなった。

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聖なる炎』 2023.02.28 俳優座劇場

 20世紀を代表する作家の一人、サマセット・モーム(1874~1965)。『人間の絆』や『月と6ペンス』などの小説は愛読者も多いが、残念ながら小説に比して戯曲の数はそう多くはなく、更に日本で上演されたものとなるとそう数はない。そのモームの戯曲『聖なる炎』が俳優座劇場プロデュース公演で38年ぶりに上演されている。これは、劇団俳優座としての公演ではなく、劇団が有する「俳優座劇場」が、作品に適したキャスト、スタッフをセレクトして行う公演だ。今回も俳優座だけではなく、文学座、演劇集団円、青年座、昴ほか多彩なメンバーだ。誤解を招くと困るが、映像や大掛かりな舞台で名前が売れている俳優ばかりが巧いのではない。いわゆる「新劇」の畑で、地道に修練を積んで来た俳優たちの演技を、劇団の枠を超えて作品本意で見せる俳優座劇場の試みは、今回で「117回」目となる。この見識は、もっと高く評価されてしかるべきだろう。志だけではこの回数は続かない。

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『炎の人』2023.01.14 俳優座劇場

 2020年3月、「新型コロナウイルス」が燎原の炎の如き広がりを見せ始めた中、文化座とは縁の深い作家、三好十郎の代表作の一つ、『炎の人』が上演された。評判が良かったにも関わらず、最後の2ステージを残して公演中止となった。以降、「緊急事態宣言」の発出などで事態は深刻化し、舞台は続々と中止を余儀なくされ、私の観劇記録も、2020年は一旦この『炎の人』で止まっている。

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「ぼくらが非情の大河をくだる時~新宿薔薇戦争~」 2022.10.23 新宿シアタートップス

 昨年、昭和の劇作家の旗手の一人であった清水邦夫が亡くなった。いろいろな意味で刺激的、問題提起が含まれた作品を遺した作家であり、「追悼」の意を込めてだろうか、最近、清水作品の上演を見掛ける機会が増えたようで、これはよいことだ。今回は、「劇団3〇〇」が新宿のシアタートップスでの上演で、主宰の渡辺えりが演出に当たっている。

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『トーマの心臓』 2022.09.15 シアターサンモール

 一つの劇団が歴史を紡いで行くのは大変なことだ。更に、その歴史の中で繰り返し上演のできる「財産演目」を持てる苦労を重ねるのはも一つ大変だが、幸福なことでもある。

 男性の俳優のみで構成されている劇団「スタジオライフ」。1985年以来、37年の歴史を重ねる中で、劇団創立10年の1995年に初演された『トーマの心臓』。漫画家の萩尾望都原作の同名作品を舞台化し、今回で10回目の上演となる立派な財産演目だ。ドイツの男子寄宿学校で亡くなった少年に瓜二つの少年が転向してくる。そこで揺れ動く少年たちの心を描いたものだ。

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「スカラムーシュ・ジョーンズあるいは七つの白い仮面」 2022.08 本多劇場

 芭蕉に「おもしろうてやがてかなしき鵜舟かな」という有名な句がある。加藤健一が長年演じ続けた一人芝居『審判』につぐこの一人芝居を観て、ふとこの句を想いだした。

 ロンドンの劇作家、ジャスティン・ブッチャーが描いたこの作品、1999年12月31日のミレニアム・イブに、1899年12月31日生まれ、つまりその日に100歳を迎える道化師、スカラムーシュが過去を語る内容だ。『審判』が2時間40分というギネス物の一人芝居で、この作品は1時間40分。1時間短いと言えばそれまでだが、たった一人で喋りながら、劇場中の神経を自分だけに集中させるのは至難の技だ。

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「弥次喜多流離譚(リターンズ)」 2022.08 歌舞伎座

 ここ数年間で、8月の歌舞伎座の「風物詩」となった松本幸四郎、市川猿之助のコンビによる「弥次喜多」シリーズ。元はご承知、江戸時代の十返舎一九の『東海道中膝栗毛』だが、実はこの弥次喜多のコンビ、この作のヒットに味を占め、東海道の後は「金毘羅詣り」だの「木曾巡り」だのとシリーズ化された、江戸期の大ヒット作品だ。原作がそういう性質のものであれば、こうして主人公だけは変えずに趣向をどんどん変えながら続演していく方法は江戸時代そのままとも言える。

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「ダディ」 2022.07 東京グローブ座

 最近、「LGBTQ」など性的マイノリティに対する理解が広がりを見せている。この「ダディ」も、男性同士の物語だが、それを受け入れる社会のありようという点でもう一歩踏み込んだ、一口で言えば「重さ」を孕んだ作品である。ニューヨークやロンドンで話題になっているのも、単にマイノリティと呼ばれる人々が大手を振って歩ける社会、という事のみではなく、そういう時代がいつか来たとしても、表面とは別に抱えている「心の闇」や「苦しみ」に焦点が当てられているからこそだろう。特に、キリスト教がイギリスやアメリカほどに根付いていない日本では、「神」に対する想いの強さがどこまで観客に伝えられるか、などの問題もあり、難しい作品だとも言える。しかし、小川絵梨子の演出が人物の心の襞を丁寧に描いているので、難解なテーマながらもすっと胸に落ちて来る。

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文化座『しゃぼん玉』 2022.06.08 俳優座劇場

 今年創立80年を迎えた劇団「文化座」。和暦で言えば昭和17年、戦争真っ最中に誕生した劇団である。創立メンバーの一人でのちに代表を務めた鈴木光枝から、息女の佐々木愛に引き継がれ、他の劇団にはない味わいを持った作品を提供し続けている姿勢は貴重だ。

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