演劇批評

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死神

 落語に『死神』という噺がある。三遊亭圓朝が海外の話を落語化したものだと言うが、今でも高座に掛ける噺家が多い人気の噺だ。それを、現代にアレンジし、さらに和風のミュージカルに仕立てたのが今回の作品だ。
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八月の鯨

昨年12月に三越劇場で上演された劇団民藝の『八月の鯨』が、今年、地方巡演に出ている。5月に川崎市からスタートし、大阪、京都、神戸、奈良、などの京阪神、旭川、釧路、江別、苫小牧、函館などの北海道の旅を終え、四日市や伊勢、多治見などの中部・東海の旅に入った一日、名古屋から30分ほどの愛知県・江南市での公演を訪れた。
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PLAYZONE1986…2014★ありがとう!青山劇場★

来年閉館が予定されている青山劇場で、1986年以来29年間にわたって続いてきた恒例の「PLAYZONE」の最終公演である。少年隊の三人が真夏のファンへのプレゼントとして続け、2008年に『Change』と銘打って、次の世代にバトンを渡した。あの年は例年にもました凄まじいほどの熱気で、千秋楽は特別カーテンコールが終わらずに、終演後1時間10分にわたって少年隊が熱いファンの声援に応えていたと、手元の観劇メモに残っている。
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白い夜の宴

劇団民藝の、昨年の『夏・南方のローマンス』に続く木下順二作品である。1960年代の半ばに近い夏の夜に、応接間で年に一度家族三世代が揃って開かれる「宴」。祖父は昭和天皇と共に、戦争の後始末に尽力した元・内務官僚。父は、かつては左翼思想を持ち、投獄された経験もあるが「転向」した後に、自動車産業を成功させ、今や大企業の社長である。息子は父の会社で働いている。この三世代の男たちを中心に、それぞれの連れ合いや恋人、友人などが一夜の「宴」の中で語り、明らかになる問題とは…。出演者が圧倒的に多い男の芝居を、『夏・南方のローマンス』に続いて丹野郁弓が演出している。
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昔の日々

20年ほど前、東京・森下にあった小劇場「ベニサン・ピット」でデヴィッド・ルヴォーの演出作品をよく観た。あの頃はルヴォー・ブームと言ってもよいほどで、多くの演劇人がこの演出家の才能を高く評価した。小劇場の濃密な空間の中での人間模様を、時には息詰まるほどの苦しさ、緻密さで描いたルヴォーの演出は、新鮮な感覚を持って歓迎された。今回上演されている「昔の日々」は、現代のイギリスを代表する劇作家、ハロルド・ピンターが生前、演出をルヴォーに託していた作品だと言う。住宅の一室の中で巻き起こる濃密な人間関係の背後にあるものを、ルヴォーの手によって炙り出してほしかったのだろうか。
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「6週間のダンスレッスン」

自発的なカーテンコールがしばらく鳴り止まない芝居を久しぶりで観たような気がする。その価値がある作品だった。今回が6演目になる『6週間のダンスレッスン』。主演の草笛光子は変わらずに回を重ねて来たが、相手役は3代目で、ダブル・・キャストだ。この日の相手は文学座の若手・星智也。たった2人だけの芝居だ。

フロリダの海が見えるマンションの14階に住むリリー・ハリソン(草笛)が「6週間の訪問個人レッスン」でダンスを学ぶことにした。現われたインストラクターのマイケル・ミネッティ(星)は、とてもではないがリリーが受け入れられるようなセンスや個性の持ち主ではなかった。しかし、レッスンを重ねるうちに、お互いの心の中に潜んでいるものが白日のもとにさらけ出される。レッスン初日に会って5分後には首になりかかっていたマイケルとリリーの間にあった反発は、やがて理解に変わり、共感となり、お互いをかけがえのないパートナーとして認め合うことになる…。今風に言えば「ハートフル」な芝居なのだが、何よりもまず「洒落て」いる。
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『錬金術師』

一般的には、イギリスの中世の劇作家と言えば誰もが「シェイクスピア」の名を挙げる。間違いではないが、同時代の劇作家、ベン・ジョンソンもはずすことはできない作家だ。知名度の点でシェイクスピアよりも劣るために、日本ではあまり上演の機会がないが、人間の「狡猾な」本質を見事に炙り出した喜劇の名手とも言える。「演劇集団 円」では、1981年9月に、西新宿にあった「ステージ円」でベン・ジョンソンの『ヴォルポーネ またの名を狐』という喜劇を日本で初演している。その時に、「こんなに面白い芝居があったのか」と感心し、事あるごとに円のスタッフに「ベン・ジョンソンの作品を…」と言って来た。今回、『錬金術師』が鈴木勝秀の上演台本と演出で新しい形で日の目を見たのは、何とも言えず嬉しいことだ。
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「倭結成20周年記念日本ツアー」

この「演劇批評」でも、何度か奈良県・明日香村に拠点を置いて活動している和太鼓集団「YAMATO」の事は書いた。年間約200ステージの多くを海外で行い、1993年の結成以来、世界53ヵ国で公演を行い、総観客動員数が600万人を超えたという集団だ。和太鼓集団はどこもそうだが、そのステージはほとんどスポーツに近いほどハードで、ずば抜けた身体能力を持っていなくてはできない。もちろん、太鼓を叩けた上で、のことだ。
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ロンサム・ウエスト

幕が開いて2分後には、主な登場人物である兄弟が、猛烈な勢いで喧嘩をしている。その言葉は下品で薄汚く、世間一般の常識に照らし合わせても、わざわざ罵り合いをするほどの問題でもない。しかも、二人はたった今、父の葬儀を終えて家に帰ったばかりなのだ。神父が慌てて仲裁に入るものの、ハエが止まったほどにも感じていない。

ロンドン生まれのアイルランド人であるマーティン・マクドナーの『ロンサム・ウエスト』。兄のコールマン(堤真一)、弟のヴァレン(瑛太)、ウェルシュ神父(北村有起哉)、近所の女の子、ガーリーン(木下あかり)。登場人物はこの四人だけの一幕物の芝居だ。アイルランドの片田舎を舞台に、決して裕福とは思えない兄弟が、きっかけを探しては取っ組み合い、罵り合い、喧嘩ばかりしている。たまに、一陣の風が吹き抜けるように、二人の生活に彩りを与えているのがガーリーンだ。神父は二人のために何を説いても、自分の無力感に、兄弟と一緒になって酒に溺れている始末。この兄弟は何を考えて生きているのだろうか。「いかにして、一瞬でも相手より優位に立つか」だ。こんなバカげた話はあるまい、と芝居を眺めていると、戯曲の持つ力に引き込まれてゆく…。
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お染の七役

1986年以来恒例となっている前進座の五月・国立劇場公演は、鶴屋南北の『お染の七役』だ。ちょうど80年前の1934年、まだ劇団が創立して間もない頃に、先代の五世河原崎国太郎が、渥美清太郎の改訂・脚本で復活上演し、七役を演じて歌舞伎界でのスタンダードな演目となったものだ。以降、坂東玉三郎や中村福助、そして当代の六代目国太郎が演じ、女形の人気演目となった。当代は16年前に国太郎を襲名した折の演目でもあり、祖父以来の前進座の財産演目ということからも、今回の上演に当たっての感慨は一入であろう。今月は明治座で同じ鶴屋南北の『伊達の十役』を市川染五郎が演じており、期せずして南北の「早替わり作品」の競演となった。
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