演劇批評

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『露出狂』2016.10.08 Zeppブルーシアター六本木

 いささかセンセーショナルなタイトルの芝居だが、文字通りに捉えると誤解を生じる。中屋敷法仁が代表を勤める劇団「柿喰う客」の人気作の一つであり、2010年の初演以降、男優のみ、女優のみなど、いくつかのバージョンが生まれている。作者本人が演出に当たっているこの作品は、あくまでも精神的な意味での「露出狂」であり、対象となる人々は高校のサッカーチームだ。作者は、体育会に所属する仲間たちを、その考えや行動から「露出狂」と考えた、とプログラムで述べている。 続きを読む

九月歌舞伎座 夜の部

 初代中村吉右衛門の業績を偲ぶために、吉右衛門の俳号・秀山の名を付けた記念の「秀山祭」。今回は、孫で二代目の名を継いでいる吉右衛門、曾孫に当たる市川染五郎などを中心とした一座である。夜の部は、時代物の大作『妹背山婦女庭訓』の中から『吉野川』。客席に両花道を設え、観客席を吉野川に見立てた壮大なスケールの芝居は、一幕で二時間に及び、なかなか上演の機会がない。川を挟んで仲違いをしている男の息子と女の娘が恋に陥る話は、よくシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に例えられるが、一概にそうとは言えない部分もある。確かに設定は酷似しているが、最も大きな違いは、若いカップルの死で終わるか、その後の親を描いているか、の違いだろう。 続きを読む

「娼年」2016.08.30 東京芸術劇場

 「売春は世界最古の職業である」という言葉がある。この言葉には多くの含意や比喩が込められてはいるものの、どこの国でも「売色」という行為が法の網の目をかいくぐり、現在も行われているのは事実だ。この作品は、石田衣良のヒット小説『娼年』をもとに舞台化したもので、松坂桃李が演じる無目的に日々を送る大学生・領が、友人の紹介で「娼夫」となり、彼の身体を求める女性たちに、身体を売る。相手変われど主変わらず、の日々を送るうちに、領の中にある感情が芽生え…という話だ。これを、三浦大輔が脚色・演出し、休憩を挟んで約3時間、濃密な感情が交錯する舞台に仕上げた。 続きを読む

「キンキー・ブーツ」2016.08.04 新国立劇場

 イギリスでの実話をもとに2005年に映画化された作品が、2012年にブロードウエイでミュージカルに姿を変え、そして「日本語版」になった。日本語版の上演台本は岸谷五朗が作成し、同時に演出協力にも当たっている。シンディ・ローパーが手掛けた音楽もノリが良く、明るく、パワフルでしかも温かなミュージカルに仕上がっている。 続きを読む

「母と惑星について、および自転する女たちの記録」パルコ劇場

 来月、改築のために一旦閉館する「パルコ劇場」の新作の公演としては最後の作品になる。今までに上演した作品ではなく、新しい劇場への架け橋の意味を込めて、あえて新作で劇場の幕を閉じる、とのこと。蓬莱竜太の作品を栗山民也が演出している。二人とも、パルコ劇場にはお馴染みの顔だ。 続きを読む

「朗読と音楽の夕べ」2016.06.14 六本木クラップス

 ここ数年来、制作費の関係や本番までの作り込みが舞台よりも簡易なことから、「朗読劇」
が増えている。ラジオしかなかった時代、「朗読」や「ラジオドラマ」が一つの「芸」として高い評価を得ていた時代があった。そうした経緯を知ってか知らずか、最近の朗読劇の中には「お手軽」だけが先行し、「読む」、あるいは「聞かせる」ことの意味や重さを置き去りにした舞台が散見される。 続きを読む

『義経千本櫻』第三部 2016.06.10

 第三部は「狐忠信」と題し、義経の忠臣・佐藤忠信が物語の軸になる部分の上演。最初は踊
りの『道行初音旅』、通称「吉野山」で幕を開ける。面白いことに、タイトルに「千本櫻」とありながら、原作の中にはどこにも「櫻」の場面はない。全山櫻に覆われる吉野の春の風景は有名で、この舞踊の背景にも吉野山の櫻が満開の様子が描かれている。ただ、初演当時はこの背景も満開の櫻ではなかったようだ。こうした工夫一つを見ても、歌舞伎が長い歴史の中で、さまざまなカスタマイズを繰り返し今の形を作り上げたことがわかる。 続きを読む

『義経千本櫻』第二部 2016.06.10

 三部に分けての『義経千本櫻』、第二部は「いがみの権太」を中心に据えた二幕の上演。最初が「木の実・小金吾討死」。尾上松也の小金吾、市川高麗蔵の若葉の内侍、片岡秀太郎の小せん、松本幸四郎の権太という配役だ。 続きを読む

歌舞伎座『義経千本櫻』第一部 2016.06.04

今まで、八月公演だけしか行わなかった「三部制」を、試験的に他の月にも拡大したようで、今月は歌舞伎の「三大名作」の一つ、『義経千本櫻』を三部に分けて、通しに近い形で上演している。『義経千本櫻』であれば、平知盛、いがみの権太、佐藤忠信という三人の男を軸に据え、その運命を描くという考え方で場面を選べば、三部に分けて上演するには適切な名作だ。市川染五郎、市川猿之助が朝から夜まで大奮闘し、松本幸四郎が「上置き」の存在で第二部の「いがみの権太」を演じる、という構成も、観客の年代の広さに応えられる仕組みだ。三部に分けると、各部の上演時間が3時間程度で、従来の二部制の4時間~4時間半という上演時間に比べ、通常のストレート・プレイ一本分ですみ、一日がかりでなくとも歌舞伎が観られるのが何よりも気軽で良い。 続きを読む

「THE CIRCUS!」05.25 よみうり大手町ホール

 架空の都市・フォーダムシティは、経済の中心地であると同時に、国内でも最も治安が悪く、麻薬の取引が横行している。市長のアルバートは裏社会の一掃を願い、敏腕の麻薬取締捜査官・ケントの協力を仰ぐものの、裏社会はマフィアの「コッピファミリー」に牛耳られている。そんな中、ストリートサーカスのチーム「ミラージュ」と出会ったケント、そしてケントを狙うコッピファミリーのスワン。やがて、「コッピファミリー」を追い詰めた「ミラージュ」のメンバーとケントが出会った相手は…。
 ストーリーの展開だけを追っていけば、細かな点で綻びがあるのは否めない。しかし、この作品は、ストーリーの内容に感動することに第一点を置いたものではなく、「ダンス・ミュージカル」という形態で、歯切れよく展開するドラマとダンスをどう見せるか、に眼目が置かれている。 続きを読む

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