「売春は世界最古の職業である」という言葉がある。この言葉には多くの含意や比喩が込められてはいるものの、どこの国でも「売色」という行為が法の網の目をかいくぐり、現在も行われているのは事実だ。この作品は、石田衣良のヒット小説『娼年』をもとに舞台化したもので、松坂桃李が演じる無目的に日々を送る大学生・領が、友人の紹介で「娼夫」となり、彼の身体を求める女性たちに、身体を売る。相手変われど主変わらず、の日々を送るうちに、領の中にある感情が芽生え…という話だ。これを、三浦大輔が脚色・演出し、休憩を挟んで約3時間、濃密な感情が交錯する舞台に仕上げた。

 若い男性を抱えては客に提供するボーイズクラブのオーナー・静香に高岡早紀、その娘・咲良に佐津川愛美、そして村岡希美、安藤聖、樋井明日香、良田麻美、遠藤留奈、江波杏子らの多彩な顔ぶれの女優が登場する。映画では時折見かけるが、「R15指定」という、「15歳以下は観劇できない」という作品は、舞台では珍しい。
幕が開いて15分ほどで、いきなり全裸でのかなり濃密なベッドシーンが始まる。それも、行為の中で発生する「音」をリアルに再現し、普通の「舞台のベッドシーン」を遥かに超えた濃厚な感覚で、生々しく演じられる。多くのファンがお目当ての松坂桃李は果敢にも何度も全裸になり、相手の女優もごまかしなしでのベッドシーンは、観客としていささかの羞恥心を覚えるほどの感覚で迫って来る。今までにも、舞台の上で全裸を見せた芝居は何本もあるが、はっきりとメインテーマを「セックス」に置いた上で、ここまでの迫力を見せたベッドシーンは初めてだろう。高岡のやや厭世的でありながらものめり込むオーナーは力演。年齢に関係なく性愛が必要なのだ、ということをまさに体当たりで演じた江波杏子の芝居の余韻が切なくもある。

 まさに「体当たり」で演じている芝居とは言え、ベッドシーンだけにこの芝居の「眼目」があるわけではない。年齢や立場、置かれた状況によって、「セックス」に関する考え方も違えば、持つ意味も違う。一つの肉体行為を通して、それをきっかけにお互いの精神がどうつながり、関係に変化を及ぼすかを描いた作品である。主演の松坂は、プログラムの中で「心の扉の奥にある柔らかいものを取り出す『鍵』になれたら」と語っている。この作品における行為は、台詞の役目も果たせば、無言の会話の役目も持っている。演劇の中での「素材としての肉体」の意味を、さらに広げるための挑戦、とも取れる舞台だ。この挑戦に挑み、文字通り肉体を擲って演じた俳優たちにとっても、衝撃的であったことは間違いない。

 演劇という表現芸術が持つ可能性の幅や深さ、あるいは見せ方、聞かせ方の範囲をどこまで広げることができるのか。そうした視点で見れば、これは異色作であると同時に問題を提起した作品だとも言える。「性」に関する表現や規制が時代と共に変わるのは当然の事で、過激な映像がインターネットで手軽に閲覧可能な今、劇場空間で生身の肉体がぶつかり合い、表現することが、別の視点で大きな意味を持ち出したことは間違いない。主演の松坂はもちろん、高岡、村岡、江波をはじめとする俳優たちの果敢なる時代への挑戦である。