いささかセンセーショナルなタイトルの芝居だが、文字通りに捉えると誤解を生じる。中屋敷法仁が代表を勤める劇団「柿喰う客」の人気作の一つであり、2010年の初演以降、男優のみ、女優のみなど、いくつかのバージョンが生まれている。作者本人が演出に当たっているこの作品は、あくまでも精神的な意味での「露出狂」であり、対象となる人々は高校のサッカーチームだ。作者は、体育会に所属する仲間たちを、その考えや行動から「露出狂」と考えた、とプログラムで述べている。

今回は、映像・舞台などで活躍中のイケメンを中心にした男性だけのキャストで、市川知宏、陳内将、小沢道成、永島敬三、ケイン鈴木、高良亘、川合諒、小野一貴など、総勢32名の出演者だ。彼らを「露」「出」「狂」の三つのチームに分け、観客は三パターンの顔ぶれで観られる、という仕組みだ。昨今、ダブル、トリプルのキャスティングはさして珍しいことではないが、この公演に関して言えば、主要なメンバーの何人かはチームによって違う役を演じなくてはならない、ということだ。一見無謀とも思える試みだが、こうして舞台の場数を踏むことで、役者は伸びてゆく。

 タイトルの『露出狂』を「露」「出」「狂」の三つのチームに分けたネーミングが面白い。「露」は「露わ」、「出」は「出(いず)る」、「狂」は「狂う」だ。あえて順位を付ける必要はないが、性質の違いで言えば「狂う」チームはメンバーの中でもさらに若い人々をメインに据えての公演だ。

高天原高校・サッカー部に入部した一年生の佐反町(さそりまち)、白峰、比留(ひる)の三人は、実力があるがゆえに先輩たちと対立をする。同期の御器(ごき)と共に、先輩を打ち負かした4人は、ただひたすら勝てるサッカー部をつくろうと結束する。しかし、その結束の姿はあらぬ方向へと向かい出し…。高校生の物語でありながら、「高天原」「白峰」「宇津保」「御器」「野宮」など、日本の古典を感じさせるネーミングのセンスが面白い。

世をあげてのイケメンブームはいまだ健在で、パンフレットを眺めても、若いイケメン揃いだ。まして、舞台が高校となれば、40代、50代の俳優というわけにはいかない。若さゆえのエネルギーと魅力で観客を巻き込み、「見せてしまう」舞台である。この舞台の特徴を一言にすれば、「未熟ゆえの魅力」とでもなろうか。この舞台に出ている面々に、深い心理描写や素晴らしい台詞術を求めることに意味はない。「どうせできないだろう」というところからではなく、そうした物を必要とする作品ではなく、求めてもいないからだ。その代わりに、この瞬間に輝き、発露する若いエネルギー、そしてノリが重要なのだ。これは、中堅やベテランの役者にはない魅力だ。だからこそ、「未熟ゆえの魅力」が生まれる。

未熟であるがゆえに、キャストも脚本も、その時々に応じていくらでもカスタマイズできる。これは大きな強みだ。それがキャストを変えながら、回を重ねて上演される理由の一つでもあろう。エンタテインメントの世界が激変とも言える速さで変わりゆく現在、観客の好みもどんどん細分化されている。そのすべてに応えることなどできないが、新しいジャンルや分野の可能性を提示して見せることは可能だ。中屋敷法仁のこの作品だけがそうだ、というわけではないが、今のエンタテインメントが起こしている大きな脈動の中にいることは間違いない。

32歳の劇作家の感性が、現代のある「部分」を象徴する一つの作品を送り出している。この状況が、次の世代へどうつながり、新たな化学反応や爆発を見せてくれるのか、今後が楽しみだ。