エッセイ

変容する芝居

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「新作戯曲と劇作家のこと」 2015.04.29

 先日、神楽坂の出版クラブ会館で、「第59回岸田國士戯曲賞」の授賞式が開催され、出席した。現代の読者には、「岸田國士」(きしだ・くにお)という人物の説明が必要になるだろう。 続きを読む

演劇界は危機なのか?

 相次ぐ歌舞伎の人気役者の死が取り沙汰されている。確かに、中間世代を担う層が一気に薄くなったことは否定のしようがない。しかし、これはこと「歌舞伎」に限ったことではあるまい。

 ミュージカルにせよストレート・プレイにせよ、小劇場演劇にせよ、どのジャンルを取り上げても順風満帆だという話は聞いたことがない。もう何十年も前から、「娯楽の多様化」と言われ、演劇界がジリジリと苦境に追い込まれていることは事実なのだ。
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2.「小劇場初体験の巻」

劇場の規模は多種多様で、1000人以上を収容する大劇場もあれば、定員50人の小劇場も珍しくない。もっと言えば、屋根がなくとも屋外でも「野外劇場」と称して芝居はできる。

15歳の時だったと思う。東京・早稲田に「早稲田小劇場」という名前そのままの劇場があった。これは劇団の名前も兼ねていて、いわば「小劇場運動」の第一世代とも呼ばれる集団の一つだ。そこで、「サロメ」を白石加代子が上演した。当時からその際立った個性は評価が高く、何としてもこの舞台を観たかった私は、勇躍「早稲田小劇場」の汚い階段を上がった。「狭かった」。それまでに歌舞伎座などでの大劇場での芝居を見慣れた私にとっては新鮮な空間であると同時に、「こんなところで芝居ができるのだろうか…」と、中学生の頭で考えたが、それは束の間、靴を脱いでビニール袋に入れ、それを持って座ったものの、後から後から入って来る観客のためにどんどん私の周りのスペースはなくなっていた。もとより、指定席だの何だの、とうシステムの芝居ではない。
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1.「芝居の浮き沈み」

最近、歌舞伎ファンになった読者の方々には予想もつかないことだろうが、今から30年以上前、私が高校生の頃、歌舞伎の興行成績は惨憺たるものだった。「歌舞伎の殿堂」と呼ばれる歌舞伎座で、10ヶ月間毎月歌舞伎が上演されるのは今でこそ当たり前だが、その頃は、年間10ヶ月、残りの2ヶ月は新派公演や萬屋錦之助(先代)、三波春夫などの公演があった。

そういう状況だから、今のように連日満員で前売り開始と同時に観客が殺到などという事態はなく、いかにものんびりしていた。新聞の広告で売り切れや貸し切りの日を確かめ、その日の朝に出かけて当日券を買っても、入れないようなケースはほとんどなかった。
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