コラム

日本の文化と芸能

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芸術院会員と河原崎国太郎

 先ごろ、秋の叙勲の発表があり、芸能の世界の人びとでは、文化勲章の桂米朝、坂田藤十郎をはじめ何人かがその栄誉に輝いた。勲章や褒章とは制度を異にする中に、「芸術院会員」というものがある。上野公園の中にある「日本藝術院」の会員で、会員の互選により会員の補充が行われるシステムだが、芸能の道を歩く人びとにとっては栄誉なことだ。

 もう二十年以上も前のことだ。劇団「前進座」の五世河原崎国太郎と話をしていたら、ふと国太郎が真面目な顔で「芸術院会員になれないものかねぇ」と呟いた。私は一瞬、耳を疑った。左翼思想を持ち、かつては共産党へ集団入党した歴史を持つ前進座の役者は、当時は国が与える栄誉とは最も遠い位置にいたし、国太郎自身が、そうしたことを嫌う役者だったからだ。
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新派復調に喜ぶ

 歌舞伎に対抗する演劇としてのジャンル・新派ができて121年。立派な古典芸能である。いつ頃からだろうか、同じ古典芸能である歌舞伎の驚異的なブームとは裏腹に、長期低落傾向が続き、観客の離脱に歯止めが利かなくなった。時期を特定するのは難しいが、私の記憶にある限りでは昭和54年に初代の水谷八重子が亡くなったのが大きなダメージだった。それから数えてももう30年の間、新派は「自分たちのするべき芝居」の模索に悩み続けていた。人気漫画「はいからさんが通る」を舞台化して若い観客の動員を図ってみたり、歌舞伎の人気役者や杉村春子、山田五十鈴といった大女優のゲストを仰ぎ、新派の名狂言に何度目かの命を吹き込もうと苦心惨憺して来たが、なかなか思うようには行かなかった。
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落語ブームのルール違反

 世を挙げての落語ブームである。古典芸能がこうして何十年かに一度のブームで今まで命脈を保ってきた、その底力は凄いものだ。こうしてブームが起きると、「迷人」が続出し、「毒演会」が盛んになる。しかし、玉石混交でなければブームなど起きないのだから、そこに目くじらを立てるつもりはない。自分の好みに合うのは誰か、は、観客が自分の眼と耳で判断すれば良いだけの話だ。
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