年に一度の祭典、とも言うべきミュージカルの名曲コンサート。今年で6回目となるが、古今東西の名曲を集めたコンサートはミュージカル・ファンにはたまらないだろう。今年も二幕で約30曲のナンバーが並んだ。「マンマ・ミーア」、「レント」、「ラ・カージュ・オ・フォール」、「レ・ミゼラブル」、「ラ・マンチャの男」、「美女と野獣」、「エリザベート」などなど…。こうしてみると、日本にミュージカルが根付いて来た歴史の一面を見るようでもある。

 メンバーも豪華で、川平慈英の司会で上原理生、坂元健児、宝田明、舘形比呂一、中河内雅貴、畠中洋、島田歌穂、平方元基、福井晶一、土居裕子ら、ミュージカルには腕の覚えの顔ぶれが並ぶ。川平は司会だけではなく、ステージング担当の本間憲一と「雨に唄えば」のタップシーンも披露の大サービス。いずれ劣らぬミュージカル大好き、の役者たちだ。

 こういうステージは文句なしに楽しいのは基本だが、ともすると危ないことがある。よく、「歌は3分間のドラマ」などと言う。有名な楽曲を見事に歌い上げることは、厳しく言えば当然だ。特に、こうしていくつも名作の楽曲を取り上げる場合、その作品を観たことのない観客に、ナンバーに込められた「物語」を伝えることができるかどうか、というところが大きな分岐点になるのではないか、と私は考える。もちろん、素敵なミュージカル・ナンバーの数々を堪能できるだけでも楽しく、充分とも言える。

 しかし、私の欲深さは、そのナンバーに込められた想いやドラマを、そこで表現できるかどうか、までをも求めたくなる。「ラ・カージュ・オ・フォール」の「ありのままの私」をあえてシャンソン風のテイストを加えて歌った舘形比呂一、「キャッツ」の「メモリー」を、その後ろにあるドラマをも含めて感じさせた島田歌穂、「リトル・マーメイド」の「アンダー・ザ・シー」に作品の愉快なエッセンスを凝縮させた坂元健児。この三人は、巧く歌うことの次に何があるのかをきちんと知り、観客に伝えようとする努力がある。他のメンバーが悪い、というわけではない。私が他のキャストの同じような心持ちを聞き逃していたのかも知れないが、名曲を集める難しさは、こういうところにある。

 驚いたのは「ラ・マンチャの男」のテーマを歌った宮原浩暢で、その艶のある豊かな声量と表情のある歌声はたいしたものだ。恥ずかしながら、今回、初めて彼の歌を聴き、プロフィールを見たら男性のヴォーカル・グループ「LE VELVETS」のバリトン担当だと知り、さもありなん、と頷いた。まだミュージカルの舞台経験はないようで、演技に関しては未知数だが、見事なものだ。今後のミュージカル・シーンのある一面を予測させた。

 もう一人、特筆すべきは今回の特別ゲスト・宝田明。昭和9年生まれの、御年81歳である。「南太平洋」の「魅惑の宵」と、「ラ・マンチャの男」の「見果てぬ夢」の二曲をメドレーで歌った。さすがに声量は落ちたものの、日本のミュージカル黎明期を背負ってきた「伝説の俳優」でもある。私事になるが、私が初めてミュージカルを観てその素晴らしさにノックアウトされたのは、昭和45年8月に帝国劇場で上演された「マイ・フェア・レディ」で、宝田明はヒギンズ教授を演じていた。以来、45年にわたり第一線に立ち続けた役者を観て来たことになる。

 日本のミュージカルは、今、花盛りだ。しかし、その種を蒔き、花を咲かせるまでの苦闘の歴史が、他のジャンルの演劇同様に存在した、ということも知っておく必要はあるだろう。濃密な時間を、まさに堪能した舞台だ。