演劇批評

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『新春大歌舞伎 夜の部』 新橋演舞場

 新橋演舞場のお正月は、長年、先代の市川猿之助のもとで修業を重ねた市川右近が、三代目市川右團次を襲名する公演でもある。猿之助が市川猿翁となり、甥に当たる市川亀治郎が猿之助を襲名し、一門の筆頭弟子として先代の猿之助一門を率い、時には師匠の代役も務めた右近に対するご褒美、とでも言えばいいだろうか。もともと市川右團次という役者は大阪で名を馳せた人で、初代、二代ともに関西の歌舞伎界に名を遺した。新しい物への興味や、「ケレン」と呼ばれる早替わりや本水、宙乗りなどの仕掛けが得意だった役者の歩みが、右近が師匠・猿之助と共に歩んで来た道に似ていることから、この名が選ばれたものだ。もっとも、右團次の名が復活するのは実に81年ぶりのことで、実際に先代の舞台を観ている人はそう多くはないだろう。従って、先代の芸と比較されることはない。新しい名跡を得て子息に右近の名を継がせ、屋号こそ「高島屋」と変わるものの、澤瀉屋一門の筆頭弟子として、さらなる活躍を見せてほしいものだ。 続きを読む

鼓童ワン・アース・ツアー 2016「螺旋」

 今年創立35周年を迎えた太鼓芸能集団「鼓童」のツアーの今年の最終公演である。和太鼓の集団は数多く、最近は日本への回帰志向からか、こうした日本の伝統に興味を示す若い観客も増えた。理屈を抜きに、音だけを聴くというシンプルな、原初の芸能の形式に近いとも言えるからこそなのか、海外では人気を博している集団も多い。「鼓童」にしても、35年の間に49か国で5,800回の公演を行い、各地で高い評価を得ている。こうしたツアーを重ねながら洗練され、練り上げられて来た歴史も大きい。さらに言えば、歌舞伎俳優の坂東玉三郎が2012年4月から芸術監督として作曲や構成などに関わっているのも、他の和太鼓集団とは違う意味を持つだろう。 続きを読む

『京都 當る酉歳 吉例顔見世興行』

 歌舞伎界での年末の風物詩、京都の顔見世興行。今年は本拠地の南座が耐震工事のため休館中で、先斗町にある「歌舞練場」での公演となった。「歌舞練場」とは、京都の花街の芸妓や舞妓が踊りの発表会などで使うための劇場で、規模は南座の半分ほどの大きさだ。とは言え、花街が劇場を持っている、というのは京都ならではのことだ。 続きを読む

『仮名手本忠臣蔵』第三部 2016.12.10 国立劇場

 国立劇場開場50周年公演の最後を飾る『仮名手本忠臣蔵』の完全上演もいよいよ第三部、『八段目』の道行から『十一段目』の本懐・引揚げまでの上演で、今月で完結をみる。休憩時間を含んで三か月間、『大序』から『十一段目』まで実に15時間30分という大作だ。江戸の昔の芝居のペースを味わいながらも、、現代人にはいささか長いと感じる場面もあったが、「国立劇場」でなければできない大型プロジェクトであることは間違いない。 続きを読む

『十一月歌舞伎座 夜の部』

 二か月に及ぶ中村橋之助の八代目中村芝翫襲名披露興行も、東京は無事に千秋楽を迎えた。時ならぬ初雪に見舞われて驚きもしたが、舞台は大入りのうちにめでたく幕になった。 続きを読む

『仮名手本忠臣蔵 第二部』 国立劇場

国立劇場開場五十周年記念公演として、先月から始まった『仮名手本忠臣蔵』の完全上演も二か月目に入った。先月は『大序』から『四段目』までの上演で、今月は『落人』から『五段目』『六段目』『七段目』の上演となる。判官切腹で幕を閉じた先月だが、今月は舞踊、世話物、時代物と同じ芝居でも色合いが異なった幕の上演となった。 続きを読む

「吉例顔見世大歌舞伎」 昼の部

 今年の顔見世興行は、中村橋之助が亡父・芝翫の名跡を、また橋之助の子息三人がそれぞれ襲名をする公演の二か月目に当たる。先代の中村芝翫は女形で、亡くなってまだ時間がそう経っていないせいもあり、「立役の芝翫」にはいささかの違和感を覚える向きもあるだろう。しかし、歴史上の役者を持ち出すまでもなく、今よりも大きな名前を継ぐことで、やがて役者としての芸容が大きくなり、幅が広がればそれで良いのだ。襲名披露は先代のコピーを作るものではない。新たな八代目芝翫が、今後どういう飛躍を見せてくれるのか、そこに期待をする公演だ。 続きを読む

『仮名手本忠臣蔵 第一部』 国立劇場

国立劇場の開場五十周年を記念して、十月から十二月までの三か月をかけて、歌舞伎の三大名作の一つ『仮名手本忠臣蔵』を完全に近い形で通して上演するという、壮大なプロジェクトだ。今から三十年前の昭和六十一年、開場二十周年記念の折にも同様の公演が行われ、当時、昭和の歌舞伎を牽引して来た大幹部の名優たちが揃って演じた。今回は、その折よりも原作に近い上演形態で、平成の歌舞伎を牽引して来た円熟の役者から花形までが顔を揃え、月ごとに配役を変えながらの上演である。 続きを読む

名古屋 顔見世 昼の部 特殊陶業工業市民会館

 十月の名古屋・顔見世興行の昼の部は、坂東彌十郎の弁慶、大谷廣太郎の従者、中村萬太郎の牛若丸による『橋弁慶』で幕を開ける。彌十郎を上置きに据えて若手たちの修行の場、という形だが、30分に満たない踊りでも、長唄に乗っての弁慶との立ち回りに、のちに御大将になる牛若丸の優美さとしなやかな勁さを見せなくてはならない。二人の若手にとっては、よい勉強の場だ。 続きを読む

名古屋 顔見世 夜の部 日本特殊陶業市民会館

 長い間、御園座の名物だった十月の名古屋の顔見世公演も、御園座改築に当たり場所を移しての開催となった。今年は片岡仁左衛門を座頭に、中村時蔵、市川染五郎、片岡孝太郎らの顔ぶれである。名古屋は、中心部から一時間半の圏内に愛知県は言うに及ばず、静岡県西部、三重県、岐阜県を擁しているためか、遠方からの観客の帰りの足を考えて、伝統的に夜の部の終演が早い。厳密に比較検討をしたわけではないが、今までの感覚的な根拠で言えば、終演が8時から遅くとも8時半が目安だろう。それ以降になると、どんなに良い場面でも、観客が席を立たざるを得ない場合がある。大都市でありながらなのか、あるゆえになのか、面白い現象だ。 続きを読む

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