最近のテレビドラマでは珍しく大きな話題を呼び、つい先日最終回の放送を終えた「やすらぎの郷」。かつて、テレビ界に貢献した人が集まって暮らす無料老人ホームで起きるドラマの数々と、往年の豪華スターたちのキャスティングが注目を集めた。この作品、『想い出のカルテット』は、引退した音楽家たちが暮らす老人ホームが舞台で、2011年にルテアトル銀座で初演、14年に今回と同じEXシアター六本木のオープニング・シリーズとして再演され、今回が三回目の上演となる。黒柳徹子が1989年に当時の銀座セゾン劇場で始めた海外コメディ・シリーズの一作で、今回が第31弾となる。 続きを読む
数年前から、演劇の世界で「2,5次元」という言葉が使われるようになった。主にミュージカルだが、必ずしもそればかりではない。私の解釈では、マンガやアニメーションなど「二次元」の作品をもとに舞台化したものを「2,5次元」と呼んでいるようだ。元を正せば小説も戯曲も紙に印刷された「二次元」の世界の産物で、意味は同じでも、あえて素材をマンガなどに求め、新たな工夫を加えて舞台化する、というところに「2,5次元」の工夫があるのだろう。 続きを読む
八月の歌舞伎座で恒例となった三部制の公演、今年も若手が大いに汗を流している。古典、新歌舞伎、新作など、バラエティに富んだ演目が並んでおり、若手・花形と呼ばれる世代の役者たちのエネルギーの発露を感じる。第三部は、野田秀樹が坂口安吾の『桜の森の満開の下』などの作品をもとに、自らの世界観で劇化した『野田版・桜の森の満開の下』。1992年の初演時は『贋作・桜の森の満開の下』となっていたが、脚本の内容も変わり、今回の「野田版」が決定版とも言えよう。亡き中村勘三郎の盟友でもあった野田秀樹の作品を、遺児の中村勘九郎・七之助の兄弟を中心に演じることに、勘三郎へのオマージュが感じられる。 続きを読む
多くの和太鼓集団が、それぞれの個性を持って活動を繰り広げている。大きなものになると直径が2メートルを超える迫力のある太鼓の音は、客席に座っている観客の身体に直接響くほどの重みを持っている。その響きや音質が、我々日本人が持っている「原初の感覚」を呼び覚ますのだろう。だから、多くの和太鼓集団が支持を集めているのだ。 続きを読む
まもなく、72回目の終戦記念日を迎える。私のように戦争を知らない世代でも、まだ戦争体験者の声を聴くことが辛うじてできる。しかし、後20年後に、それが可能かどうか。生の声、ではなくとも、戦争の悲惨な体験や経験を作品にしたものは多数あり、それに触れることで、自分なりに戦争について考えることは100年先、200年先でも可能だ。 続きを読む
「大阪松竹座新築開場二十周年記念」「関西・歌舞伎を愛する回 第二十六回」の「角書き(つのがき)」が付いての、夏の大阪での歌舞伎だ。松竹座が開場してもう20年かと思うと、時の流れの速さに驚くと同時に、上方での歌舞伎公演がこうして続いていることにいささかの安心も覚える。もちろん、根付かせた上でさらに発展させるための、並々ならぬ努力と観客の支えがあってのことだ。どんなに良い芝居を上演しても、観客が劇場へ足を運んでくれなければ興行が成立しないのはどの芝居も同じ事だ。 続きを読む
今までにいろいろな組み合わせの舞台を観て来てはいるが、能楽堂で落語を聴いたのは初めてではないだろうか。今年の春に銀座・松坂屋の跡地にオープンした商業施設「GINZA SIX」の地下三階にある「二十五世観世左近記念 観世能楽堂」で、立川志の輔が語る「志の輔らくご」だ。この能楽堂は長らく渋谷・松濤にあったものを、解体し、手入れをして移築したものだ。能楽堂も劇場の一種には違いないが、完全に用途は限られており、その特殊な形状の場所での落語会、相変わらず志の輔のチャレンジ精神は旺盛だ。現在建て替え中の渋谷・パルコ劇場で毎年お正月にたった一人で三席ずつ話していた「志の輔らくご」が、場所を移して銀座で三日間だけの公演に替わったとも言える。 続きを読む
年間十二か月の歌舞伎公演が当たり前になり、他の劇場でも歌舞伎公演を行うのが常態となっている今、毎月の公演が大当たりを望むのは難しい。観客としてはそれを期待したいが、そうも行かないのが現状だ。それにしても、今月の夜の部は、演目の選定や並べ方に「異議あり」というところだ。大幹部クラスは松本幸四郎、中村吉右衛門、片岡仁左衛門の三人。この三人が中心になる演目が据えられるのは当然の成り行きだが、夜の部は吉右衛門の出演はなく、昼の部は仁左衛門が出ていない。夜に幸四郎が二本の演目に出演しており、さらには夜の部は舞踊のような軽い息抜きの幕がない、というのも問題だ。オリンピックを前に、外国人の観客など新たな観客を開拓するためには、開演時間や上演時間の長さもさることながら、今までのような演目の並べ方を根本的に考えることも、歌舞伎に課せられた課題の一つだろう。 続きを読む
五月の大阪・松竹座は、市川猿之助、中村勘九郎、中村七之助の三人を中心とした一座だ。昼の部を猿之助が主役の演目、夜の部は勘九郎・七之助兄弟が主役の演目とし、それぞれが付き合い、得意分野で松竹座の観客を沸かせている。宙乗り、早替わり、本水での立ち回りと各自工夫を凝らした演目に、観客は大喜びだ。 続きを読む
昭和30年代後半に生まれた私にとって、この作品との最初の出会いは映画のスクリーンだった。タイトルも『華麗なるギャツビー』、主演はロバート・レッドフォード、ミア・ファーローという美男美女の代表選手で、1974年の公開である。リアルタイムでは観ておらず、その後、「名画座」の二本立て、三本立てなどで観たのだろう。圧倒的に豪華で華々しく美しい世界に、「これがアメリカか」と単純な憧れを持った記憶がある。 続きを読む