数年前から、演劇の世界で「2,5次元」という言葉が使われるようになった。主にミュージカルだが、必ずしもそればかりではない。私の解釈では、マンガやアニメーションなど「二次元」の作品をもとに舞台化したものを「2,5次元」と呼んでいるようだ。元を正せば小説も戯曲も紙に印刷された「二次元」の世界の産物で、意味は同じでも、あえて素材をマンガなどに求め、新たな工夫を加えて舞台化する、というところに「2,5次元」の工夫があるのだろう。

 現在上演中のこの作品も、1981年に高橋陽一が『少年ジャンプ』で連載を始め、日本にサッカーブームを起こすほどの影響を与え、7年間の連載を経てその後は斬続的に連載や新作が描かれ、2017年にシリーズ通算100巻を迎えた人気作品である。天才サッカー少年、大空翼を中心とした人物が、小学生から中学を経て、サッカー選手として、人間として成長を遂げてゆく物語だ。同じマンガを例に挙げれば、2016年に40年にわたる連載を、コミック200巻の発行とともに終えた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は、登場人物は増えたりしたものの、主なキャラクターの年齢は変わらずに推移している。それは作品の性質によるもので、作品の良し悪しの問題ではない。略称『こち亀』も数回にわたって舞台化されているが、こうしてマンガやアニメに舞台の素材を求めることは、不思議でも何でもない時代である。

 『キャプテン翼』では、客席の一部が「プレミアム体感シート」と呼ばれる座席になっている。コンピュータに接続されたハーフジャケットのような物を着て観劇していると、シュートやキックの衝撃が、身体に伝わる仕組みだそうだ。その席で観劇したわけではないので実際の感覚はわからないが、開演前のテストの様子を観た限りでは、観客には驚きを持って迎えられていたようだ。また、映像を多用し、3Dとも言える迫力のある映像に、かなりリアルな音が効果として使われている。
 こうした舞台が上演されると、「すべて人が演じ、感じさせてこその演劇ではないか」という議論も当然出て来る。一方で、さまざまな技術の発達で、今や古典芸能の歌舞伎でも多くの仕掛けが電動になった現状もある。これを、どこでどう切り分け、折り合いを付けるのか、という問題はかなり複雑だ。私個人の感覚で言えば、あくまでも「サブ」の位置で舞台を補助・補完するための効果として舞台の面白みが増すのであれば問題はない。しかし、これらの「工夫」や「効果」に生の舞台が凌駕されてはならない、と思う。いささか乱暴な比較になるが「人間」と「人工知能」の関係に似ているかもしれない。テクノロジーの技術をいかにうまく利用できるか、が問われるところだろう。

 今回の物語は、フランス国際Jrユースを制した翼を中心とする大空翼を中心にした全日本のチームに対抗する「RED STORM」という強敵が現われ、という内容だが、「U20」という20歳以下の選手を対象とした話だけに、役者たちも若い。翼を演じる元木聖也をはじめ、中村龍介、松井勇歩、渡辺和貴など、エネルギーいっぱいで体当たりの芝居を見せるが、演技としてはまだまだ青臭さが残る。中では、チームを束ねるロベルト本郷を演じた田中稔彦が、年長の分、大人の芝居を見せたと言えるだろう。夏休み期間の公演とあって、観客のターゲットも子供を中心としたファミリー、個々の役者、作品のファンなど、いろいろな層の観客が集まっている。演劇的な観点での舞台の「密度」という点では考えなくてはならない部分が多々あるが、こうした「2,5次元」という発想の作品が増えてゆく傾向が、今の演劇がどの方向へ向かおうとしているのか、その先に何を見ているのか、を考えさせられる一つの例ではある。