「花より男子」

 舞台もテレビも、漫画を原作にしたものが増えているのは昨今始まった風潮ではない。昨年も、『ワンピース』が歌舞伎化されて大きな話題になったのは周知の事実だ。この風潮を批判的な眼で眺める向きもあるが、私は、作品を厳選し、どう手を加えるかの問題に過ぎないと思っている。つまり、素材をどこに求めようと、出来上がった舞台の質が問題であり、その出来が悪かった時に、「原作が漫画では…」と言うのは卑怯な話だと考えている。ただ、芝居の制作現場において、すでに読者を多数獲得している実績のある漫画に頼りすぎるあまり、素材を吟味する作業がいささか疎かにされ、玉石混交になっている感があるのは否めない。

 この『花より男子』も原作は漫画で、1992年に『マーガレット』に連載を開始、12年にわたって連載されたものだ。単行本は37巻に及び、累計の売り上げ部数が6,100万部という記録は今も破られていないと聞く。そればかりか、映画、テレビにと映像化され、それが国内だけではなく台湾、韓国でも大きな人気を博している。この漫画の作者は神尾葉子だが、同じジャンルで言えば鈴木由美子の『カンナさん大成功です!』も日本とは全く違ったストーリーに換骨奪胎され韓国で映画化され、ヒットを飛ばした。原作の魅力を活かし切れれば、漫画が芝居や映像の原作に充分耐え得るのは、多くのケースが証明している。

 さて、この舞台である。とてつもない経済力を背景にしたイケメン4人組が牛耳っているセレブばかりが集まる私立高校に、親の見栄で入った平凡な女子高生と4人の物語、と言ってしまえばそれで粗筋の説明はすむ。バカにしているのではなく、全37巻に及ぶ長い漫画の基本になる部分から、多くのエピソードが枝葉のように発生しており、その基本の部分をミュージカルで舞台化した、ということだ。
演出の鈴木裕美が「明るく楽しい」を目指した舞台であり、テーマや設定から出演者も若い。平凡な女子高生・つくしを好演している加藤梨里香は18歳、他のメンバーも20代がほとんどだ。例外はつくしの両親を演じる吉野圭吾と生田智子だが、違和感なくこの世界に溶け込んでいる。

 学園の「花」であり、「F4」(このFは「フラワー」のFだそうだ)と呼ばれているイケメン男子は、松下優也、白洲迅、真剣佑、上山竜治。原作の役の個性に合わせての配役だろうが、舞台の経験が多い上山竜治に一日の長がある。松下優也が意外な繊細さを見せた。
20年以上前に、イケメン・ブームを作り出していた漫画だけに、役の個性が4人ともども綺麗に振り分けられている。15分の幕間を挟んで3時間の上演時間、と聞いており、いささか長いのではと予想したが、幕が開いてみるとそのスピード感で見せられてしまう。大きな舞台転換には時間がかかるシアタークリエの舞台機構を逆手に取り、簡単な装置を巧みに使いこなした工夫も一役買っている。

 総じて予想を上回った舞台ではあったが、この結果を、演劇界がどう受け止めるかは実はそう簡単な問題ではない。観劇人口の先細りを防ぐための有効な一つの手段であることは認められる。その一方で、演劇界からオリジナル作品が出にくくなる状況、あるいは既に原作がある作品ばかりに頼る状況が生まれやすくなるのは、問題でもある。これから、作り手がそのバランスをどう考えるか、つまりは「芝居づくり」をどう考えているのか、を同時に問われているような気がしてならない。