恵まれた容姿と、はっきりした演技で、今後が期待される俳優・野村祐希。30歳を過ぎ、「大人」の演技を求められる中で成長の跡を見せた舞台があった。アメリカのメジャーリーグの選手たちの心の内奥を炙り出した作品、『Take Me Out』2025 。
2016年の初演以来の経験者を中心とした「レジェンドチーム」と、オーディションで選抜された「ルーキーチーム」のダブルキャストで、野村は「ルーキーチーム」で物語の核となるスター選手・ダレンを演じた。千穐楽の舞台を終えた直後、話を聴いた。

-お疲れ様でした。ダブルキャストの芝居も当たり前の時代ですが、キャストの違いで演出が変わるのは珍しいですね。
両方を担った演出家の藤田俊太郎さんの才気と、付いて行こうと頑張った出演者みなさんの努力だと思います。
今までの野村さんの作品からすると、かなり毛色が違いますね。どこが一番大変でしたか?
野村 そうですね。不思議なことに、大変なことがなかった、と言ってもいいぐらいでした。決して楽に何かをしていたわけではないのですが、ずっと「楽しい」が勝っていたような気がします。大変だな、きついなぁと思うことがなくて。
こんなに台詞がある役は二回目ぐらいですが、稽古場も楽しかったですね。2チームなので、稽古の時間はそれぞれ1回4時間ずつで合計8時間なんです。でも、物足りないなぁと感じました。もちろん、まずは自分自身が足りていないとの不安があるので、稽古が少ないとも感じるんですけど、それだけではなく、稽古場にいたい、この空気の中にいたいという想いもありました。
そんな稽古場でしたから、誰も萎縮することもなく、若い子もドンドン発言していましたね。そうしたことも良かったのかなと思います。
-そういう空気の中で、若い方から野村さんへの提案もありましたか。
野村 今回がっつり一緒だったのは、小山うぃる君のシェーンとのシーンです。彼はこの作品が初舞台なので、演出の藤田さんがつきっきりで、「二人三脚でやりましょう」と言ってくださって、細かな部分を創り上げていきました。その中で、気になったことがあれば僕も言う、という形で進めました。
-稽古期間はどのぐらい?
野村 1ヶ月半ぐらいですね。基本は1日4時間で、たまに1日中とかもありました。さっきも言いましたが、楽しくて雰囲気がいい稽古場だったので、むしろ、もう小屋入りしちゃって大丈夫?みたいな気持ちもありました。
-楽しい時間は早く過ぎますからね。
野村 そうですね。毎日、ちょっと物足りないなあぐらいの感覚で稽古場へ行ってましたから。
-プレッシャーもあったでしょうが、楽しさが勝った理由は何なんでしょうか。
野村 カンパニーの「和」を乱す人がいなくて、和気藹々とやれたことだと思います。僕らの「ルーキーチーム」は、最年少が21歳の小山うぃる君と島田隆誠くんで、、上はKENTAROさんの56歳なんです。年齢の幅は広いですけど、みんな感覚が近いというか。部活の仲のいい先輩後輩みたいな感覚でやれました。
それには演出の藤田さん、プロデューサーの江口さんの存在が大きく、最初の段階で、「その笑顔を絶やさずやりましょう。笑顔で免疫も上がるから、感染症にもならないように、笑顔でやっていきましょう」と言われたので、常に空気が良かったですね。すべての歯車が巧く噛み合って、みんなの意識や感覚にズレが生まれなかった、だから一丸になってやれたんだと思います。
ダレンを創り上げることができる楽しさもありましたし、藤田さんも自由にやらせてくれて、「これどうですか?」「こんな風にやってもいいですか?」と提案すると、「ぜひぜひ!」って言ってくれて。それが、自分の感覚は間違っていない、という自信にもつながりました。
-自分から提案できるのは風通しがいい証拠ですね。
野村 自分からもできますし、もちろん藤田さんからの提案もありました。
-アイディアのキャッチボールが出来るのは稽古場がまとまっている証拠ですね。
野村 そうですね。どんなことでも、否定しないでやらせてもらえることも嬉しかったです。
-私は、「レジェンドチーム」は、年上の人も多く、大人としての自我が確立した中で生まれる個の問題と捉えました。「ルーキーチーム」は、青春群像劇の中で生まれる問題がぶつかっる芝居と感じました。
この舞台では、野村さんの存在感の大きさが一つの魅力でした。ご自身ではどうですか。
野村 僕は身体が大きいので、そちらを感じられてしまうのかな、という想いはありますね。なので、それ以上に「ダレン」という人物の存在感を感じてもらえるように演じたつもりです。
-実際には舞台にいなくても、ダレンがいた空気感。おそらく意識されていないと思いますが、天性備わった、野村さんならではの魅力かもしれません。
野村 ありがとうございます。
-野村さんは、大変なスポーツマンですから、そういう感覚の近さもあったのでは?
野村 スポーツは大好きですが、そんなことはなかったです。
-スポーツマンは多くの人の憧れでもあります。ご自身がスポーツマンで、スポーツマンを演じることは、優しいのか、逆に難しいのか。その辺りはいかがでしたか。
野村 僕はずっとサッカーをやっていましたが、野球はほぼ未経験なんです。この舞台では、野球をやっている風なシーンがあるだけで、選手たちの普段の生活の中で起きる問題がテーマなので、あまりそこは意識しなかったですね。もちろんフォームや動き方のコツなどは経験者から教えてもらいました。
スポーツ選手、メジャーリーガーだからと過剰に意識はしなかったですね。ちょっとトレーニングは増やしましたけど。もう少し身体を大きくしたかったので、トレーニングを増やしたのと、あとは、野球の基礎的なことを教わるくらいでしたね。
-外見よりも、内面の充実を図るという?
野村 そうですね。外見は少し意識するぐらいで。ずっとサッカーをやってきた中で、スポーツチームという、男社会の雰囲気は自分の中に入っているものも多いので。だから、ロッカールームの場面なんかは、意識しなくてもそこを生活の重要な場所としている人物の感覚が、自然と出せたのではないかと思います。
-この作品にはもう1組、先輩のチームがいます。そちらに対する感覚は、野村さんからはライバルですか、先輩ですか。
野村 僕はライバルとして見ていました。特に、同じダレン役の章平さんへの対抗意識はありました。
-章平さんは初演以来、今回で3回目。そういう意味ではハンデ戦ですね。初演からのダレンに対して、自分がやってみてどうですか?ある程度のところまで肉薄できたとか、自分の方が抜いたなとか、いろんな感覚おありになると思いますが。
野村 章平さんのダレンをあまり見ていないんですよ。稽古場の時もあえて見ないようにしていました。影響を受けてしまうかな、とも思ったのですが、何とか自分のダレンでできたような気がします。
たぶん僕のダレンを「レジェンドチーム」に入れたら、全然違ったものになったと思います。チームの空気に合わないというか。逆もまたしかりで、章平さんが「ルーキーチーム」でダレンをやっても、空気感が違うだろうなと感じます。
-そうでしょうね。だからこそ、2チームにする意味もありますね。
野村 そうですね。藤田さんは、この2チームの闘いを、「演劇界のワールドシリーズだ」っておっしゃってくださいました。そういう意味では、僕だけではなく、「チーム」として勝ちたいって気持ちでやっています。舞台ですから、明確な勝ち負けはないんですけど。
-野村さんが、明らかに章平さんに勝てているところが1つありました。それが何か分かりますか?
野村 身体の大きさですかね?-この役に初めて臨む、ということです。
野村 なるほど。
-今回の舞台が好評で、来年もやりましょうとなれば、2回目だという感覚の「馴れ」が出ます。今回は初めてだから、何をやっても新鮮でしょう。この感覚は、1作品で1回しか味わえないものです。章平さんは初演の時に体験していますが、この作品に関しては二度とできない。それが「ルーキーチーム」の強みだと思います。新鮮さでと、初々しさ。
演技のテクニックや技術の点では、レジェンドの方が巧いかもしれないし、事実そういう部分もあるでしょう。でも、この初々しさは、今回だけのもので、それが良かったと思いました。
-では、客観的に、このダレンという役ですが、稽古や本番の間、どうご覧になっていましたか。
野村 第一印象は、嫌なやつだな、という。傲慢というか。何不自由のない環境で育ったダレンにとっては普通なんでしょうけど、人を見下す態度。優しくなくて、自分が一番、私は神ですって言ってるぐらいだから、正直なところ、好きな性格じゃないですね。それに「神なんかいない」と言える感覚。
野村祐希としては好きじゃないタイプですけね。ただ、そこでいろいろな事件が起きて、自分の生き方だけが正しいわけじゃないんだと気付いたり、大きすぎるものを失って、ダレンがやっと普通の人間に戻っていくような感覚があります。そこへ行くまでの幅というか。今までここでしか考えてなかったのに、それがどんどん広がって、許容できるものが増えて、人間として成長する話だなと思います。
そう考えると、ダレンは、ただ知らなかっただけというか。環境、たぶんシェーンもそうだったし、ダレンは中産階級に生まれて、白人黒人のハーフだけど、裕福で、差別もなく生きてきて。で、何でもたぶんうまく行ってたと思うんですよ。挫折を知らない、というか。当然ですけど、野球も上手くて。でも、そういう環境だったから、他のことを何も知らず、「孤児院ってあったんだ」なんていうことを普通の感覚で言っちゃうし、デリカシーも何もないし。
環境のせいでそうなってしまった、ダレンも、シェーンも、デイビーも。だから最初のイメージ、嫌なやつだなあっていうのは、そう考えるとなくなっていきました。むしろ、めちゃくちゃ傷付いたけど、柔軟だし、精神的にタフなのかなぁ、とも思います。そうやって、いろいろなダレンの姿を感じて、表現しようとしている間に、だんだんダレンと僕との距離が近付いたような気はしましたね。
-この作品は2時間10分、3幕をつなげてあります。幕が開いた時には、確かに傲慢に見えます。でも、幕切れの満ち足りた優しい笑顔を見て、はっきりと2時間10分の間でダレンの成長を感じました。あの瞬間の姿や顔を、幕開き当初の傲慢さと比べたら、1人の人間がいろんな問題の中で、悩んだり苦しみながら、短期間の間に成長していく姿を見せられた点、は評価できるところだと思います。
野村 ありがとうございます。やった甲斐がありました。
-ご自身でもそういうことを意識されていましたか?
野村 絶対的なイメージとしての成長物語というのは、稽古から意識してやってきました。
-舞台、映像と多方面でご活躍で、それぞれに魅力を感じてらっしゃると思います。舞台、映像それぞれの魅力は?
野村 舞台に関してはベタなんですけど、生物ですし、毎回違います。今回も、毎日ブラッシュアップして、絶対初日よりは今日の方が良くなってるんですね。そうなるように、努力はしたつもりです。昨日よりも絶対いいし、どんどんステップアップして、ブラッシュアップしてやろうと思いながらやっていました。
何とか今日の千穐楽まで来られたので、やってる側もその楽しみが味わえますし。多分お客さんも、ここ変わったとか。単純なミスも、お客さんは楽しんでくれるし。そういう目の前で見られる、同じものが生まれないのが、我々も、演者もお客さんも楽しめることで、舞台はそこが醍醐味かなとは思います。
-千秋楽が近づく名残惜しさのような感覚は?
野村 始まる前からありましたね(笑)。あっ、稽古中、もう終わっちゃうわ、みたいな。本番入ったら、あと9回しかできない。で、あっという間に今日が最後だと。寂しかったですね、今回。始まってほしくない、みたいな。早く劇場へ入って、本番が始まってほしいんだけど、終わってほしくない。でも終わった時の達成感も得たいしっていう、複雑な感情でしたね。今まで、そう多くの舞台を経験したわけではないですけど、こういう気持ちになったのはこの作品が初めてです。
-それだけ満足した作品に出会えた、ということですね。
野村 そうですね。本当にそうです。嫌なことが1つもなかったですね。欲を言えば、もっとやりたいです。
やってみて思ったんですけど、レジェンドでやりたいという気持ちにもならなかったですね。ルーキーだからこそたぶん楽しい、この楽しさ、やってて充実感があるのかな。
-今までに何本か舞台をやられて、今回新たに気付いたことはありますか。
野村 ちょっと恥ずかしいんですけど、改めて、その、お芝居楽しいなあっていうことに、ちゃんと気付けたというか。今まで満足しないというか、もっとやりたいけど、この役はここまでしかできない、もっと前に出て芝居をしたいという欲があっても、それが叶わないものが多かったんで。
でも今回は、自分のやりたいことを否定せずやらせてくれるカンパニーでした。ダレンみたいな、舞台や物語の真ん中にいる役をやりたいと思う人がたくさんいる中で、チャンスをもらえたことがまず嬉しかったです。
その上で自由にできる。自分の意見、こうやりたいですっていうのをすぐ採用してくれるし。あとはみんなで話し合って解釈深めて、っていう行程が、めちゃくちゃ楽しくて。そうですね、改めて、稽古中にも思ったんですけど、お芝居楽しいなぁっていう気付きがありました。
-それは、俳優としてすごく大きなことですよね。映像はどう感じていましたか。
野村 映像に残るのは良い面ですね。映像は、短期間でもいろんな作品に出られますが、舞台は、一回に一本しか出られません。その上、結構な時間をそれに集中しないといけないじゃないですか。「手作り」の効率の悪さはあるのかもしれませんけれど、毎日カンパニーの仲間と顔を合わせて、だんだん密度が濃くなってゆくのは、舞台ならではだと思います。
-映像は場合によって、ここのシーンだけ撮りますと言って、前後の気持ちができないままに、その瞬間の気持ちを作る難しさがありますね。同じものがずっと残る利点もあります。舞台は、DVDは撮れても、それが本物か、と言えばそうではない部分もありますよね。
野村 確かに。
-幕が下りたら全部おしまい。優劣をつける必要はなく、俳優さんの資質、好き嫌い、向き不向きも大きいと思います。
野村 今、話してて思ったんですけど、舞台の方が好きなのかな、と。
ただ映像もやりたい想いはあります。感覚的には映像の方がドライな感じがしますね、今、中村さんが言った良い悪いではなく、性質として。
-これからの舞台の中で、こういう人間像を演じてみたいというのはありますか。
野村 今回この作品を演じて思ったのは、キッピー的な役をやりたいですね。そもそもの性格が僕キッピー寄りなんですよ。
-真ん中に堂々と立つよりも、みんなを調整するような。
野村 例えば飲み会でも、誰かが酔っぱらって大変そうになったら、すぐに自分の酔いは覚めて、ケアし始めるとか。人の世話が好きなんでしょうか。
-今回は海外の作品ですが、日本の芝居に対する興味はいかがですか。
野村 もちろん、あります。具体的に、この作品のこの役。というのがすぐには出て来ませんけど、お芝居であれば。
なんだろうな、…前から思ってたのは、めちゃくちゃ悪い役やりたくて。ヤクザ役とか来るんですけど、優しさが滲み出ちゃって、見えないって言われるんで。
-それは外見のイメージから来るのかもしれません。でも、武闘派とか肉体派のヤクザではなく、上等なスーツに身を包んだインテリヤクザのような役の方が、かえって面白いでしょうね。
野村 そうですね。おっしゃる通りで、サイコパスとか、普段優しいけど実は人殺します、みたいな役に魅力を感じます。
-『ジキルとハイド』とか、二重人格、三重人格のような。
野村 そう、そういうのをやりたいなと思いますね。
-舞台を観て、ある感覚を覚えました。一言にするなら「未完成の魅力」ですね。
野村そうですか。ありがとうございます。
-面白いなと思ったのは、第一印象の、舞台に立っている姿、容姿の魅力、声の質量、トーン、感情の表し方、それぞれ破綻がない。けれど、それぞれもう1つ何か欲しいな、という感覚を持たせる。それがいろんなところにある。
これが全部揃ったら、大変なことになっちゃうから、時として1つの小さな欠片を埋めるには、あと20年かかるかもしれないし、3ヶ月後に埋まるかもしれない。ある程度出来上がっている俳優さんよりも面白いな思いました。
野村 ありがとうございます。伸びしろがあるっていうことで。ありがとうございます。
-さっきも申し上げた、はけた後の存在感とか、それは芝居がうまい下手ではないんです。あなたが天性授かってる魅力。そういうものを持ってる人は、あまりいないと思います。
野村 はい。ありがとうございます。
-話は変わりますが、ご自分の台詞の中で、1番好きなのはどこですか。
野村 ちょっと待ってくださいね…。 1番嫌いでもあるんですけど、「死ね」ですかね。「デイビー。死ね。」もしくは「死ね。」。普段からも好きじゃなく、絶対に言いたくない言葉です。それをあそこで絞り出して、伝えてしまう。ダレンの中で一番あそこが苦しいんだろうなっていうところで、そういう意味で好きです。
-泣きたくなるほど辛い。あの2文字はものすごく強い言葉だし、それを言いたくない自分と、言ってしまいたい自分とが、葛藤して出てくる言葉。あのシーンは印象的ですね。
野村 今も苦しいんですけど、そこを考えると。
-他に、これは言っておきたい、ということがあれば。
野村 言いたいことありました。この『Take Me Out』に出られたことで、僕は、大きなターニングポイントに立っていると思うんですよ、人生の。本当、今の話聞いたからとかじゃなくて。前、今思い出したんですけど、おっしゃってくれたので。
-いや、でも人生のターニングポイントになるような大事なことを、今思い出したんですか?大丈夫ですか?(笑)
野村さん そういえば。
ーそう言えば、で思い出したってこと、それを?
野村 緊張、緊張っていう、緊張のせいってことです(笑)。
-そうしておきましょう(笑)。
野村 以前、主役をやらせてもらったことがあります。今回は群像劇の中で、ダレンという大きな役をいただいて、物語の中心にいて、物語が進んでいくきっかけ、発端を作る大事な役です。それを、自由に伸び伸びとやらせてもらえて、カンパニー全員で、解釈を深めて。最初なんかもずっと解釈で、本読みしてずっと解釈を話していました。そういう経験も今までなかったんで、いい経験になりました。
章平さんがダレンを初めてやった時に、『Take Me Out』が糧になったということをおっしゃってました。多分それと同じ感覚を、今味わってるのかなぁという気持ちがあります。僕は、稽古場でもこれやりたいけど、いいのかな、って萎縮しちゃうタイプなんです。今回はそれがなくて、気持ちがマイナス方向に向かうことがなく、自分の想いをどんどん出せました。
これで、別の現場行っても、多少出せるようになっていれば、これは、『Take Me Out』のおかげでだなと思います。
-初主演、初舞台など、いろいろな位置付けの作品があり、『Take Me Out』は、役者・野村祐希の、ターニングポイントになった作品と、これから何年か経って、振り返った時に、そういうところへ置かれるわけですね。
野村 そうですね。今回は凄い経験で、自分の糧になったと思います。次の行動に具体的に繋がるものになったという気がしています。役の大きさだけではなくて、考えることも多いし、密度が濃い稽古の中で吸収したことも多いような気がします。
-それは、今までの何本かの舞台があったからでしょうね。
野村 以前には感じられなかった感覚があるのは、そうなのかもしれません。それに加えて、今回の舞台は自分の中で受け取ったもの、役者として吸収したものが多いので、こういうことがターニングポイントになるんだろうな、と。
-先ほど、舞台の方が好きだ、とおっしゃった。僕も舞台向きの俳優さんかなと思って、一批評家として眺めています。
野村さん はい。
-舞台は、阿片のようなものだと思っています。やると中毒になる。またやりたい、と。でも、ずるいから、自分からは行動を起こさないで待っているんです。なぜなら、帰ってくるから。本当に舞台に魅入られた役者は、この阿片に釣られて帰ってきます。
野村さん なるほど。
-僕も結局その魅力に絡め取られ、抜け出せずにいます。その間に、多くのことを先輩から教わりました。いい年になり、独り占めはルール違反だから、新しい世代の人に降ろしていかないと、繋がらないと思っています。せっかく先輩から教わったことをここで終わらせるのはもったいないですから。
野村 ありがとうございます。
-こちらこそ、ありがとうございました。